日本ではトップ選手であっても、競技を続けるにはかなりの苦労を強いられるのだ。
スピードスケート男子500mで4位に入った及川佑は、レストランチェーン「びっくりドンキー」所属ということで話題になった。大学卒業後も競技を続けたかったが、スケート部がある企業には採用してもらえず、競技をあきらめて一般の社員として「びっくりドンキー」に入った。そこで、社長にスケート競技をしていてトップクラスの選手であることを話したら、会社でサポートしてくれることになったそうだ。
日本にメダルの可能性があるスピードスケートであっても、会社に部があって社員として身分を保証され、競技に集中できる環境が整っているのは、富士急(岡崎朋美や渡辺ゆかり、団体追い抜きの石野枝里子、大津広美が所属)、日本電産サンキョー(昔の三協精機、加藤条治、大菅小百合、吉井小百合が所属)、ダイチ(富山の土木会社、田畑真紀が所属)、アルピコ(長野の松本電鉄グループ、外ノ池亜希、妹尾栄里子が所属)ぐらいしかない。清水宏保ほどの選手になれば、NECがスポンサーになり、プロとして活動できるが、他の選手は自分でスポンサーを見つけて、競技を続けているような状態だ。
たとえば、男子1000mに出場した今井裕介は、自分でチームディスポルテというクラブを作り、あらゆる企業に活動の主旨を訴え、寄付なども募り、そのサポートで競技を続けている。同クラブには男子団体追い抜きの杉森輝大、女子団体追い抜きの根本奈美も所属している。彼らは練習をする以前に企業をまわって頭を下げ、活動資金を確保しなければならないのだ。
そうしたサポートしてくれた企業や人たちのために、彼らは必死で滑ったはずだ。だが、思うような成績は残せなかった。その結果を彼らは環境のせいにはしないだろう。厳しい状況を納得したうえで、競技を続けているのだから。
このようなことは他の競技でも当たり前のようにある。企業だって、4年に一度しかない盛り上がらない冬季競技に多額の資金などつぎ込めない。それも分かる。
ただ、これだけは書いておきたい。「メダルが獲れないじゃないか。選手は何をしているんだ」という前に、選手が厳しい環境で競技を続けていることを知っておいてほしいと。