為末の今後のテーマは、ハードリング抜きの400mの走り。そこを強化することで、さらに自分を向上させようとしている。そのために取り入れたいと考えたのが、高校生でありながら400mの日本王者になった金丸のパワフルな走法だ。
しかし、いくら金丸がスーパー高校生だといっても、為末とは格が違う。それでなくても、先輩・後輩の上下関係が幅をきかせる体育会の世界。従来の常識では、こんな発想は出てこない。
だが、為末はそんなものにはとらわれず、素直に学ぼうと思った。
年下の選手の技術だろうが、いいものはいい。そう考えることができる自由な発想、変なこだわりのない視線。これはすごい。
前も書いたが、為末にはインタビューしたことがあって、その人間性にはほれ込んでいる。競技でも何度も感動させられており、熱烈に応援している選手だが、この発言を知ってさらに共感を覚えた。
私も基本的に年齢だけで決まる人間関係はおかしいと思っている。
確かに、年齢を重ねることによって経験は豊富になる面はあるし、礼儀や秩序といった点で、ある程度はこうした上下関係も必要かもしれない。
だが、自分のことを考えると、トシをとったからといって、その分、人間のレベルが上がったとはとても思えないのだ。自分だけじゃない。いいトシこいて、どうしようもないと思う人はいっぱいいるし、若くても尊敬できる人もたくさんいる。
だから、ある頃から私は年齢で人を見ないことにした(礼儀はわきまえるが)。ひとりの人間として見て、分かり合えるかどうかで判断している。
高校までは部活をやっていたし、日頃スポーツのことを書いているから、自分にも体育会の体質はどこかに残っている。が、今ではそんなものはバカバカしいという思いの方が強い。
おそらく為末は、こんな理屈さえも突き抜けているに違いない。
「金丸君に学びたい」とさらっと言えてしまうのだから。
カッコいいなあ。